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『トウモロコシ畑』
2013/07/11作
トウモロコシ畑があった

僕らはどちらからともなくここに足が向き
その整列の中央で足を留め
この場所で息を殺して向かい合った

彼女の鼻の頭の上に出来た大きな汗の粒
きっと僕はそれ以上のはず

逃げているわけではなく
準備なら出来ていると思っていた

いつになく近くに見る彼女はどこか大人で
少年の戸惑いってやつが最後の一歩を踏み出せずにいた

これほどまでの窮屈な思いは経験がなく
だからどうなんだという自問の声が通り過ぎた

川向こうの木に覆われた寺から届いていた蝉の声が止み
いつの間にかキーンという耳鳴りのような音が聞こえる


暖かくて柔らかい感触
そして少ししょっぱかったのは多分僕のせい
シャボンのような香りに洗われた気分で
押し当てた唇をひくのも忘れ
ハッと気付いてから離れた


少し視線を落としていた彼女
「きっと上手だと思うよ」
最初に口を開いた

その笑顔は恥じらいとかそういうものではなく
安らかで許された境界線を僕に教えてくれた

「やっぱり夏、あんなに青い」
彼女の視線を追うように見上げると
穂先の空に接した場所だけが風に揺れていて
ざわめいた平行線の仕切りの中にその青空は居た
本当に真っ青だ

何か言おうとして
「トウモロコシって、髭の数だけ粒がはいっているらしいよ」
何故か大馬鹿野郎の僕は
脈絡のない話をしてしまい後悔した

その後悔から逃げるように歩き出す僕
・・後悔の汗は味が濃い・・
また馬鹿げたことを思い出していた


ふと右手に触れる手
後ろから着いてくる彼女の手
・・手を引いてよ・・
僕にはそう伝わった

畑を出ると一気に夏草の匂いがたち
激しく鳴き続ける蝉の声も帰ってきた
 
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